折れない心

何度も敗北を味わってきた筆者が挫けずに試験勉強や語学を頑張ります。現在はAWS認定ソリューションアーキテクト[アソシエイト]に向けて対策を取り組んでいます。

Yuubariの読んでよかった本(その10) 『その女アレックス』

何年か前の「このミス」(「このミステリーがすごい」誌)でその年の海外ミステリー小説部門で1位になっていたので気になって購入した小説でしたが、表紙が怖いのでYuubariは敬遠していました。

その女アレックス (文春文庫)

その女アレックス (文春文庫)

 

 直近で読みたい小説を概ね読んでしまったので、しぶしぶ手にこの本を取ってみました。
フランスのサスペンス小説です。


ある日、パリの街頭で若く美しい女性(アレックス)が白昼堂々と粗暴な男によって誘拐されます。
目撃者も乏しく有力な証拠も無い中で、パリ市警の刑事(カミーユ)が職業生命をかけて囚われの女性を追いますが、誘拐の被害者が生存が怪しくなる時間が迫っています。
一方暴行を受けて監禁され生命の灯が消える寸前まで囚われのアレックスはなんとか精神力で耐え凌ぎ、事件を追う刑事カミーユはどこの誰とも知れない囚われの女性を少しでも早く生きているうちに救おうと必死に立ち回りますが、そこだけでも緊迫感たっぷりの序盤です。

 

構図としては乃南アサさんの名作サスペンス小説『鎖』を思い起こすような序盤ですが、この小説はそこからの展開が凄いです。
どう凄いかはネタバレになってしまうので詳細は書けませんが、ジェットコースターのようなストーリー上の転調を繰り返し、徹頭徹尾読者の裏をかく完成されたストーリーにYuubariは心の底から感服してしました。

 

キャラクターの心理描写や心の内面まで踏み込む人間描写の深さも魅力的でした。
ストーリーありきで希薄な人間描写の小説はたまにありますが、この小説はキャラクターの一人一人にしっかり息を吹き込むことに成功していると思います。


この作品は「フーダニット」(Who done it?)ではなく「ホワイダニット」(Why done it?)に焦点が当てられていますが、種明かしの鮮やかさはこうした丁寧な人間描写に支えられていると言えます。

 

ショッキングなバイオレンスシーンも多いですし(まず表紙からして怖いです)、一部グロテスクな描写に正直Yuubariは途中で読むのをギブアップしそうになりましたが、結論から言うと最後まで読んで本当によかったです。
こういう稀有な読書体験があるからサスペンス小説はやめられないですね。

 

また翻訳が極めて巧みなところも良かったです。
海外小説にたまにあるたどたどしい日本語は一切なく、自然な日本語の小説として違和感なく読めました。
フランスらしくウィットに富んだ表現も巧みに日本語化されていたと思います。

 

グロ耐性が無い方にはオススメできませんが、サスペンス小説としては「完成度が高い」という表現が控えめに思えるほど比類ない物語の多重性を誇る作品だとYuubariは感じましたのでハラハラドキドキな話が好きな方にはオススメしたい小説です。