メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年 @新国立美術館
以前読んだ「美術展の不都合な真実」という本に記載されている通り「●●●美術館展(海外の美術館から作品を借りてきて展示する)」という形式の美術イベントはどうしても「物見遊山」的展示になりがちで、主催者側の企画自体のメッセージ性(観客にどういう方向性で観てもらいたいかという意思)が薄いと感じます。
多くの場合、相手美術館が一部改装などで展示できない期間に日本サイドが高額な費用を寄付という形で相手美術館に支払って借りてきた作品を展示するからなのですが、当然展示できる作品は相手ミュージアムから借りられる作品に限定されるわけです。
今回もメトロポリタン美術館が一部改装するためにその期間展示できない作品群の中からセレクトして借りてきたようです。
借りられる作品が限られるわけですから主催者側がこの手のイベントに特定のメッセージを盛り込むことは難しいです。
そういうわけで、ここ数年Covid-19問題もあり「●●●美術館展」系の美術イベントはYuubariはスルーしてきたのですが、今回思うところあって「メトロポリタン美術館展」に行ってきました。
今回観にいった理由としては至極簡単な動機で、Yuubariが好きな画家の作品が多いため行かないといけないと思ったからでした(^^;
なにしろ、Yuubariが好きなフェルメール、カラヴァッジョ、ドガ、ゴヤ、マネ、シスレー、ターナーあたりの作品を一度に観ることができるからです。
今回観に行った中でYuubariが特に印象に残った作品を語ります。
ヨハネス・フェルメール『信仰の寓意』 1670-72年頃
今回メトロポリタン美術館からフェルメール作品が来ると聞いて、メトロポリタン美術館が所蔵する4枚のフェルメール作品の中からこの作品が来るとは正直言って思っていませんでした。
この作品は絵のコンディションがあまりよくないため、今まで一度も来日したことはありませんでした。書籍などでも「修復がうまくいかない限りトラベリングは難しい」と書かれていました。
今回が本邦初来日の公開になります。Yuubariも初めて本物を観ました。
この作品はフェルメール後期の作品で、フェルメール作品にしては情報過剰な描写になっておりカトリックを象徴するモチーフ(蛇、磔刑の絵、胸に手を当てるポーズなど)が満載な作品です。フェルメールといえばキャリア初期はキリスト教がテーマの絵が多かったのですが、中期以降はずっと宗教色の薄い絵が多かったのですが、なぜかこの絵だけは後期フェルメール作品の中でも宗教色が強い作品です。
フェルメール作品としては特徴的によく使用されるウルトラマリンの色合いに目が行きました。また同じくフェルメール作品で定番なアイテムですが、画面左のカーテンの描写も何か自然に視線が画面に引き込まれます。
日常を静かに描いたフェルメール作品が好きなYuubariとしては、この作品はそこまで好きな作品ではありませんでしたが、この絵に関しては何しろ実物をお目にかかること自体が貴重。
実際に観てみると想像より大きい絵で、間近で見るととても迫力を感じてしばらく見入ってしまいました。
カラヴァッジョ『音楽家たち』 1597年
カラヴァッジョ作品は日本でも何度か「カラヴァッジョ」展が開かれたのでお目にかかる機会は多かったのですが、いつ観てもカラヴァッジョの絵は本当に惚れ惚れするくらいテクニックが卓越しています。
特に以前『マグダラのマリアの法悦』の実物を見たときは圧倒されて涙が出そうになりました。
カラヴァッジョ作品は純粋に絵画としての描写力が圧倒的なので、実物を見ると見入ってしまうことが多いのですが、この作品に関してはカラヴァッジョの初期の作品ということでまだ超絶テクニックが完成される前の作品のように感じました。ちょっと人物が狭い画面の中で窮屈そうですね。
欲を言えばメトロポリタン美術館が所蔵しているもう一つのカラヴァッジョ作品『聖ペテロの否認』も見たかったです。
まったくの余談ですが、Yuubariは以前寝る前にカラヴァッジョの伝記を読み、カラヴァッジョに殺されそうになる夢にうなされたことがありました( )笑。カラヴァッジョはあれほど神々しい絵を描くのにとにかく乱暴者で手が付けられなかった人物でした。
エドガー・ドガ『踊り子たち、ピンクと緑』 1890年頃
悪くない・・いやとても素敵なドガの作品ですよ。ですが欲を言えばYuubariは全盛期のドガ作品が観たかった。
この作品を制作している時代のドガの視力は著しく低下していたので、どうしてもタッチがドガの全盛期に比べて劣る印象を感じてしまいました。
メトロポリタン美術館にはドガの作品が多数収蔵されており、わがまま言わせていただければ同館所蔵の『ダンス教室(踊りのレッスン)』や 『バーで練習する踊り子』あたりを観たかったです。
勝手言っているのは自覚していますが、このあたりを持ってきてくれて観れていたらYuubariは大満足だった。
マリー・ドニーズ・ヴィレール 『マリー・ジョゼフィーヌ・シャルロット・デュ・ヴァル・ドーニュ(1868年没)』 1801年
この絵はインパクトがあり、印象に残りました。この絵のことをはYuubariは知りませんでしたが面白い構図の絵ですね。逆光でモデルの女性も影になっていますし、むしろモデルの女性がこちらを見てキャンバスに絵を描いていますので見ているこちがらモデルになるメタ構図。割れた窓から外の世界が見えるのも意味ありげです。
キリが無いのでこのあたりでやめておきますが、印象に残った絵はほかにもたくさんありました。
さすがにメトロポリタン美術館というだけあって日本初公開の本当に貴重な作品を多々みることができたのでそれは間違いないですが、Yuubariのような泡沫美術ファンのわがままを言わせていただくと、近世以降の画家の代表作を観たかったというところです。特にドガ・フェルメール・カラヴァッジョはもう1・2点観たかったです。
個人的な趣向で語ってしまいますが、ドガもフェルメールもモネも1点しか今回来ていませんでしたがメトロポリタン美術館には一般的評価の高い絵はもっと所蔵されていますので。
そこに不満があるならば「ニューヨークのメトロポリタン美術館に自分で観に行けばいいのでは?」と言われてしまいそうですが。そうですね・・・本当にいつか行ってみたいです。
「西洋絵画の500年」というとらえどころないテーマの通り、「メトロポリタン美術館にある名画を持ってきました」感は強く、これといった主張が無い企画展というのは観に行く前からわかっていましたが、展示する作品をある方向性に向けて絞りテーマ性をはっきり打ち出してくれたら良かった気がします。
ちなみに知り合いでニューヨークのメトロポリタン美術館に行ったことがある人は今回の「メトロポリタン美術館展」ではなく、新国立美術館内のお隣のスペースで展示されていた「ダミアン・ハースト展」に行っていました。正直いってYuubariもそちらを見た方が良かったかも。
消化不良感と満足感が入り混じる企画展でしたが、展示作の中でお目当ての作品がある方は足を運んでもよいのではないでしょうか。