Yuubariが最近ハマっている漫画5選(その11)
Yuubariは漫画を読む方法がここ10年でだいぶ変わってきました。
学生の頃は漫画を読むのは紙の本オンリーでしたが、いまは電子書籍(アプリ含む)と紙の本が大体半々くらいです。
持ち運びもお手軽な電子書籍も良いですが、紙の手触りや感触が好きなのでお気に入りの作品はできるだけ紙の本で読みたいです。
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『血の轍』
優しくて美人な母は実は心に大きな闇を抱えていて、その母に共依存のような形で育てられた少年の悪夢のような現実と葛藤を描いた作品です。
一言で「毒親」と切り捨てることができないような複雑に歪んだ母性と共依存、そして放棄という過程をとある事件をもとに圧巻の迫力で綴られていきます。
現在12巻まで読みましたが本当の意味で衝撃作でした。
読んでいる読者まで病みそうな毒の強い作品ですが、非常に丹念にかつ生生しくときには観念的に描かれていて、もはやYuubariはこの作品に文学や絵画の持つ芸術性すら感じました。
特に主人公の視点からみた世界の描写が圧巻で、たとえば主人公が自分を支えてくれる存在を失って心が壊れたときの風景はゴッホの風景画のような歪曲した空だったり、夢か現実かはっきりわからないような意識の中で現れる幻の母は禍々しくも神秘的な虚像の描写でしたり、単純に絵として表現力が突出していて圧倒的な描写力に引き込まざるを得ませんでした。
漫画家の浦沢直樹さんがMCを務める「漫勉」というTV番組で作者の押見修造さんがゲストととしてフォーカスされて作画風景が紹介されていましたが、スクリーントーンを一切使わず妥協が一切ない独特の作画作業がクローズアップされており、描画に関しては相当計算されていることがよくわかりました。
作中でメタファーも多用され、夢の中で精神的に行き詰った主人公の口に蛾が入り込む描写などは気持ち悪さよりもの悲しさを感じます。
主人公の心の変化が描画のタッチや表現に大きく反映されるという手法はとても興味深いですね。
作画についてばかり述べていますが、ストーリーもとても練られていて先が読めない展開に驚かされました。
過保護気味にあった親から少年への関係が少年に恋人ができることによってこれまでの相克が崩れて対決構造になったり、ある犯罪行為により心理的に追い詰められていく様子などはサスペンス要素も見逃せません。
だいぶ前に読んだ萩尾望都さんの『残酷な神が支配する』という作品を思い出しましたが(この作品も親子の歪んだ関係を描いた物凄い圧の強いイチオシ作品です)、親によって心が踏みにじられた子供の描写は本当に読んでいて心が苦しくなります。
人間の内面の苦しみと犯罪事件と結びつけるサスペンス的な展開ははるか昔学生時代に読んだドストエフスキーの『罪と罰』も思い出しました。
主人公の心の苦しみと悪夢のようなストーリー展開に翻弄されて、Yuubariは漫画を読んでいてひさしぶりに手汗が止まりませんでした。
「読んでいて楽しい作品」ではないので誰にでもおススメできるかどうかというと難しいところですが、ひとつの表現方法として漫画がここまで観念的な高みに昇華されたことにいち読者としてとても衝撃と感銘を受けた作品でした。
『スキップとローファー』
中学校の同級生が数名しかいない地方から、高校進学を機に東京に上京してきた主人公女子(みつみちゃん)の高校生活を描いた作品。
地方から都心に出てきて都会の華やかさに心躍りながらもギャップを感じたり成長していくという話は実際にもよくありますし漫画や小説・映画でもよく登場します。
アニメ映画『君の名は』でもそういう要素が序盤にありました(「上京」ではなく「入れ替わり」でしたが)。
この作品『スキップとローファー』も地方と都市の学生生活のギャップに戸惑いながらも主人公の女子が芯をしっかりもって前に進んでいきます。
好感を持てるのは地に着いた現実味のある高校生活を描いていること。
高校生活が過剰にキラキラしすぎていないし、かといって人間関係がドロドロしすぎているわけではない等身大の高校生活が描かれています。
いきなり恋愛模様を見させられるわけでもなく、ひとりひとりがコンプレックスや悩みを持ちながらもゆっくり前に進む姿に共感を感じました。
主人公のみつみちゃんは決して美人ではないし要領が良いわけでもないのですが、とても素直でポジティブ。
そんな主人公に周りのともだちも次第に良い方向に影響されていく情景が本当に愛おしい。
『ひらやすみ』
都内(阿佐ヶ谷)の年季の入った小さな平屋の家を知り合いのおばあさんから貰い受けたフリーターのアラサー主人公がいとこの美大生とのんびり過ごす日常を描いた作品です。この作品はとても癒し力が強い作品です。
疲れているときに読んでほっとしました。
人物描写が丁寧でどの主要なキャラクターはみんな好感を感じました。
定職に就かずのんびりフリーター生活を満喫しているアラサーの主人公(ヒロトくん)だったり、不動産の会社社員として忙しく毎日働いて一人の生活を満喫しているようどこか張りつめている糸を緩めたいアラサー女子(よもぎさん)、都会の大学生活に馴染めなくてうらぶれているけど漫画家になる夢がある美大生(なつみさん)など人物描写がとても優れていてキャラに厚みがあります。
人はみな裏と表の顔がありますが、それを作中の出来事を絡めながら肩肘張らずにとても効果的に表現していて読んでいて気持ちが良いです。
ストーリー上で気になるのはのんびりマイペース主人公と心の余裕がない不動産屋さんのよもぎさんとの関係。忙しく働いている不動産屋さんの女子からみると、どうみても主人公はモラトリアム人間。
対象的な生活様式なので反発(よもぎさんが一方的に怒りをぶつけている)するのですが、よもぎさんの反発の中に「わたしもこんなまったりした生活したいな」というかすかな憧れのような気持ちが透けてみえるのが面白いです。
いつの頃からか「癒し」が生活の中で求められるようになりましたが、ちょっと小休止したいときに読みたい作品です。
『かげきしょうじょ!!』
はじめにお伝えすると「過激」ではなく「歌劇」のお話です。
Yuubariはまだ既読が4巻までなのですが(現在刊行されているのは既刊12巻)、途中まで読んでいて印象に残った作品なので取り上げてみました。
架空の音楽学校(専門学校)を舞台にした歌劇に取り組む生徒たちを描いた作品ですが、読めばわかるかと思いますが宝塚音楽学校がモデルになっています。
宝塚歌劇団に入団するためには宝塚音楽学校を卒業しないといけない(ですよね?)のですが、この専門学校で生徒たちはミュージカルや声楽・演技などを学びタカラジェンヌとなっていきます。
そのタカラジェンヌの卵たちの生活にフォーカスした作品ですが、一般的な学校とは全く異なる特殊な世界の話なのでとても興味深く読んでいます。
毎年ニュースでも合格発表の様子が報道されていますが宝塚音楽学校に入学することは本当に難しい。
劇団の演劇の学校でトレーニングを積んで初めて受験することができますが、とても狭き門となっています。
Yuubariの遠い親戚で数年前宝塚音楽学校に3回目の受験で合格した人がいましたが、入学前に彼女が出演したミュージカルを観たことがあります。
舞台の上で輝いていた彼女の演技力やカリスマ性をもっても一度では合格に至らなかったので本当に厳しい世界なのだなと感じました。
話を『かげきしょうじょ!!』に戻しますと、その宝塚音楽学校の生徒たちはひとりひとりが独特のバックグラウンドを持っています。
登場するメインの生徒はもともと劇団で活躍していた人や元アイドル・伝統芸能の経験者などなど。
こうした個性ある生徒たちが未来のタカラジェンヌとなるべく真剣にミュージカルに取り組み切磋琢磨する様子に宝塚ミュージカルにとても興味が沸きました。観に行かねば!
『ぼおるぺん古事記』
こうの史代さんの作品といえば、アニメ映画になった『この世界の片隅』や実写映画化している『夕凪の街 桜の国』が知名度がありますが、Yuubariは『長い道』『ぴっぴら帳』や『さんさん録』なども好きですね。市井に生きる人を瑞々しくも暖かく描く作風が好きで昔からYuubariはこうのさんの作品を愛読してきました。
『ぼおるぺん古事記』はこうの作品の中でも異色で、日本の神話である古事記をこうのさんがボールペンで書いた漫画です。
全編がボールペンで書いてあるからこそ出る素朴な味もあると感じました。
デジタル作画どころかスクリーントーンすら一切つかわずに手作業で細やかに古事記を描く執念を感じました。
最近改めてこの『ぼおるぺん古事記』を再読しました。理由は近々伊勢神宮に行く予定があるからです。
伊勢神宮は古事記の中でも非常に重要な役割を担う天照大御神を内宮で祀っていますし、神宮周辺には猿田彦神社や月夜見宮など古事記というか神道ゆかりの神社がたくさんあるので本書で古事記をおさらいしようと思いました。
『古事記』をテーマにした学習漫画はたくさん出ていますが多くが子ども向け。
『ぼおるぺん古事記』のように古事記を最初から登場する神々を省略せずに描いた漫画は珍しいと思います。
ただし、『ぼおるぺん古事記』の(一)・(二)・(三)の三冊で綴られるのは古事記の上巻である神代編まで。中巻・下巻で綴られる人代編はカバーしていないです。
ですので、有名なヤマトタケルのエピソードなどは『ぼおるぺん古事記』では登場しない。
古事記は人代編も面白いので、ぜひこうの先生に人代編も描いてほしいなと思います。
古事記では膨大な数の神々が登場しますが。こうのさん流のイメージを膨らませて描かれている神々がとても愛嬌があってクセになりました。
あの荒ぶるスサノオノミコトですらどこか憎めない描写です。古事記に登場する神々はもともとがとても感情豊かで人間味を感じますが、そのあたりをとても巧みにこうの流に絵として落とし込んでやさしく表現していると思います。
ちなみに古事記を現代語の口語で活字で読みたい方にはこちらの本がおすすめ。
とてもわかりやすくて古代史専門の歴史学者の方が書いているので注釈もしっかりしています。
Yuubariは以前にこちらの本を読んで古事記を知りました。
古事記を知ると神社に行ったときに祀られている神様の名前や来歴がわかるようになるので一層神社めぐりが楽しくなります。
日本人なら古事記を知っておいて損はないと思います。